山の恵みをいただく~大山猪鹿(ジビエ)という贅沢~

公開日 2025年07月25日

 登山のあとの一杯のビール、そして一皿の料理。

 疲れた体にしみるそれは、ただの食事ではなかった。旅の終わりに食べた”猪鹿(ジビエ)料理”の印象的な味。「身近に感じていなかったジビエが気軽に食べられる」「登山をし、神社で参拝、帰りにジビエ料理を堪能できて満足」なぜ、印象に残るのか・・・

 ここでは、大山猪鹿(ジビエ)料理の魅力について御紹介します。

大山の自然と猪鹿(ジビエ)の関係

 古くから「雨降山(あふりやま)」とも呼ばれ、農作物の豊作を願う信仰対象として人々の心に根付いてきた。関東平野からほど近くにも関わらず深い森林と豊かな水源に恵まれている。この自然豊かな自然環境は、野生動物にとっても格好の生息地となっている。特に、近年、大山周辺ではニホンジカやイノシシの個体数が増えており、農作物への被害も深刻な問題となってきている。こうした状況の中、地域では野生動物の命を無駄にせず活用する手段として”猪鹿(ジビエ)”という形での利活用が模索されてきた。それは、「持続可能な命の循環」を目指す取り組みでもある。

 ジビエとして食される鹿や猪は、いずれもこの地の四季の移ろいと共に生きている。春は山菜を食べ、夏には沢の水を飲み、秋には木の実を蓄えて冬を越す。つまり、私たちがいただくその一皿には、大山の風土そのものが宿っている。

 「ジビエ」はフランス語。欧州では貴族の伝統料理として親しまれてきた歴史がある一方、現代においてジビエを食べるということは、単に珍しい肉を味わうことではなく、山を知り、命と向き合い、自然との関係を取り戻す行為に他ならない。

 大山詣りに訪れた江戸の人々が、旅の終わりにどんな食を楽しんでいたのかわからないが、もしこの地の猪鹿(ジビエ)を食べていたら「ありがたいものをいただいた」と言うに違いない。

実際の猪鹿(ジビエ)料理

 猪鹿(ジビエ)肉は、タンパク質や鉄分・ビタミンBが豊富で、脂肪が少なく、栄養価が高い。健康志向の人にも今注目されている。伊勢原では、そんな猪鹿(ジビエ)料理を食べられる。猪鍋を中心に、カレーやバーガーなど工夫がほどこされている。


大山阿夫利神社参集殿の青嶺カレー

オカリナキッチンのジビエバーガー

 古宮旅館の猪鍋と豆腐会席

味から見える地域文化

 大山猪鹿(ジビエ)を口にしたとき、感じるのはうま味だけでなく、都会の料理とは違った、土地の空気や人の手間ひま、山との距離感まで染みこんだような味である。

 山の恵みを無駄にしないという狩猟文化の知恵が詰まっている。命を奪うという行為の重みを受け止め、最大限に「おいしくいただく」こと。猟師は丁寧に処理し、地元の料理人は臭みを抜き、料理する。そんな”手間”の一つひとつが、料理の味となって現れる。

 また、大山周辺では、猪鹿(ジビエ)だけでなく、とうふや山菜といった地場の素材との組み合わせも多い。これは素材と素材の”土地の相性”を活かす知恵でもある。派手な調味料ではなく、素材同士が引き立て合う味。そこに”この土地ならでは”の文化が感じられる。

 そして何より印象的なのは、料理に込められた感謝と節度である。大山では、捕獲数の制限を守りながら野生動物と向き合い、命を必要以上に奪わないという考えに根付いている。

 味には、作った人の姿勢が出る。そしてその姿勢には土地の文化がにじみ出る。大山の食べる猪鹿(ジビエ)料理は、そんな文化の写し鏡のような存在であり、観光地でありながら、大山はまだ”本物”を食べさせてくれる場所なのだ。